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上を目指す

 ただひたすら上を目指す、ここはそういう場所なのです。
 斜里岳に源を発する水は、落差3メートルほどの滝を落ち、よどむ間もなく押し流されていきます。滝つぼに落ちても少しの濁りも見せない色と、人の話し声を飲み込んでしまう轟音は、この川が山や森に支えられて、真夏の今でも豊かな水量と清らかさを保っているのだということを教えてくれます。


 斜里岳を下りた後、さほど幅のない川は、この滝がなければ、もしかしたら穏やかなままオホーツク海へそそぐのかもしれません。でもここで生まれたサクラマスたちには、3メートルの滝を擁したここが故郷であり、同時に、自分の子供たちを育むべき川でもあります。この滝を越え、産卵のためにさらに上流へ向かうというのは、生まれた時から背負った宿命なのです。

 数秒ごとに、ときには何匹もが一度に、滝へ挑みます。滝つぼから跳ね上がり、垂直に近い水の流れに飛び込んでいきます。中には、水の勢いに跳ね飛ばされてしまうものもいます。誰にそうさせられているのでもなく、ただひたすら自らの本能に突き動かされて、何度も何度も挑みます。
 私がその場にいる間、滝登りに成功したサクラマスは、一匹もいませんでした。成功率はとても低いそうです。産卵の季節がすぐそこまで来ている今、「サクラマス」という名前の由来になっている婚姻色に染まった個体も沢山いました。でもここで彼らのまとう色は、桜の花から思い描くような淡く柔らかな色ではなく、にじむような血の色に見えてくるのです。


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