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幻の幻

 低く垂れ込めた曇り空の奥から、前触れもなく、何十羽なのか何百羽なのか、渡り鳥の大きな群れが現れます。この春も、ちゃんと十勝に寄ってれた、そう確認してまずは安心します。河川敷をゆっくりと、その群れの方向に進みます。雪解け水をなみなみとたたえた流れが、少しずつ幅を広げ、見通しが良くなってくると、河川敷に面した牧草地に白い鳥と黒っぽい鳥の群れが見えて来ました。ハクガンとシジュウカラガンの群れです。
 どちらも、乱獲や天敵の影響で個体数が激減し、かつては幻の鳥と呼ばれていました。それが、長い保護活動のおかげで数を回復させ、近年では十勝にもこれだけの数がやって来てくれるまでになりました。どちらの種も、まだレッドデータブックでは絶滅危惧の1A類に指定されていますが、この季節、この場所に来ると、そのことを忘れてしまいそうなほど、大きな群れに会うことができます。
 さぁ、今年はその中にもっと珍しい一羽を見つけました。ハクガンの青色型です。アオハクガンとも呼ばれ、ハクガンと全く同じ種ですが、羽の色が黒っぽくなる遺伝子型で生まれてくる個体です。幻と呼ばれた鳥の中でも、更に稀な存在です。
 そんな情報が既に出回って来ていたのか、アオハクガンの正面には三脚を立てて大きなレンズを向けるカメラマンが何人かいました。人間の注意を引きやすい珍しい鳥たちは、一際警戒心が強いことが多いのですが、ハクガンたちは思ったよりも肝が座っています。次々とやってくる車を見ては、落ち着きを失ったシジュウカラガン達が次々と遠くへ飛んでいってしまう一方で、ハクガンとアオハクガンは餌をついばむことにもっぱら執心中です。目の前の畑はハクガンの白ばかりになり、奥にはシジュウカラガンの黒ばかりの畑が、面白いように出来上がりました。
 そんな興味深い様子をのんびりと眺められるようになった時代を、私たちはありがたく享受しています。先輩たちの努力を無にすることのないよう、彼らが再び「幻の鳥」などと呼ばれることのない世界にすることが、私たちの、未来への宿題でもあります。


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