両手を広げて
人は、広い場所に身を置くと、両手をめいっぱい広げてみたくなるようです。
山は紅葉が始まる頃かもしれませんが、土曜は大雨で、日曜も重そうな雲がまだ空の大部分を覆っていました。近くのナイタイ高原へと向かってみます。
濃い赤紫の萩の花が、高原へ続く気持ちの良い道のりをささやかに飾っています。暑さが和らぎ、食欲が戻ってきた頃なのかもしれません。一心に草をはんでいる牛もいれば、軽快に走っている牛もいます。放たれた牛たちは、水飲み場を中心にして、緑の丘へ白や黒のモザイク模様を思い思いに描いています。
高原を一望するテラスでは、うしソフトと名付けられたミルクとチョコのソフトクリームを食べることができます。雲は重くかかっているけれど、帯広の街まで見渡せる展望と、美味しいソフトクリームを手に、すっかり観光気分です。
展望台で入れ替わり立ち替わり写真を撮る人たちの様子が見えました。こんな広い場所に来ると、人は自然と手を広げて大きさを表現してみたくなるようです。飛び上がって高さを表現してみたくもなるようです。ここをよく知る地元民としてのちょっとした優越感は、初めて訪れた絶景を前に、嬉しさをいっぱいにしている人たちを見ているうちに、しゅーっと空気が抜けるようにしぼんでいきました。ここではもう“初めて”の感動は味わえないのか、急にそう気づいたからです。素直に感動の声をあげられる姿が、ちょっぴりうらやましくなり、そろそろ新しい出会いを探しに行きたくなりました。