嵐の前
ガーガーと、しゃがれた声で愛嬌のあるホシガラスも、冬支度の真っ最中。鳴くことも忘れて、行ったり来たりと一心不乱に飛び交っています。ハイマツの実を山の斜面に埋めて、冬の間の食糧を蓄えているのでしょう。一年で一番大切な作業かもしれません。
足元には薄氷が張っています。ひとしきり歩いてうっすらにじんだ汗が冷やされたからなのか、あまりに美しい景色のせいなのか、身震いしそうになりながら高台に立ちます。足を踏み入れることができない向こう側には、青空を映す池塘があり、赤や黄色で縁取られた谷筋がうねりながら続いているのが見えます。燃えるような、でも温かみのある赤いナナカマドのトンネルをいくつもくぐると現れるこの景色が、普段暮らしている世界とつながっているということが、不思議なことのように思えてなりません。
大きな嵐が、もしかしたらこの風景を消し去ってしまうかもしれない、そう考えたら、どうしても再び向わずにはいられませんでした。2週連続の旭岳です。でも来てみて本当に良かった。肩で息をしながら、道を譲り譲られ交わす挨拶も、皆自然と明るくなります。絶景に高鳴る胸の鼓動を共有しているかのような、そんな気分です。
2017年09月19日
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