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初夏のスイッチ

 ちょうど一年くらい前に通りかかった望渓橋からの景色を思い出して、久しぶりに遠出しました。一本道の幹線道路沿いですが、地図を見ても橋の名前は載っておらず、目印になるものも少ない山間部ですから、通り過ぎてしまわないように速度を落としながら行きます。
 窓を開け、緑のトンネルの中を、エゾハルゼミのシャワーと、ムンと漂う草木の香りを感じながら走っていると、少し不思議な感覚がやってきました。身近なところでも次々と花が咲き、緑が濃くなって、季節が遷り変わっていく様を見ていたはずですが、ここに来てやっと、夏がやってきていることを実感したような気がしたのです。音と香りと色とを強烈に浴びて、体のスイッチが夏へと切り替わったようです。ほんの数か月、行動範囲が狭まっていただけですが、季節センサーは知らず知らずのうちに感度が落ちてしまっていたのかもしれません。
 石狩川の支流は豊かな雪解け水をたたえながら、山々を潤していました。望渓橋からの眺めは変わらず絶品で、隣の「望壁橋」ではシラカバやヤナギの高木が壁を成し、記憶が正しければその先は「緑雲橋」で、対岸の新緑と深緑のモザイクが絶妙です。振り返って仰ぐ山々には大きな雪渓がはり付いていましたから、あちらはまだ冬と春との境目を行ったり来たりしているのでしょう。心おきなく、行きたい場所へ行ける日は少し遠そうですが、心と体に栄養をもらって、またしばらく頑張れるだろうと思えてきました。

2020年06月15日

カテゴリ
今週のヒューエンス
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