足音
立春を過ぎると、シジュウカラのさえずりが聞こえるようになりました。「春が近づいてきた」と感じる音です。朝の冷え込みはそう変わらないようであっても、昼間には雪解け水の滴る音が聞こえます。季節の遷り変わりは、暦通りに進むものではありませんし、私が気づくより前から鳥たちはさえずり、雪解けも始まっていたのかもしれません。でも、カレンダーの二十四節気が目に入った途端に、季節の足音が耳に届き始めるのですから、私の季節感とはなんと現金なものだろうかと感じます。
「夜は昼にはならない」とは、デンマークの有名な照明デザイナーの言葉だそうです。夜を昼間のように煌々と明るくするよりも、必要最低限の明かりで過ごすと、闇が美しく見えるのだそうです。そうして、北欧では長い夜を楽しむとのこと。これは季節にも当てはまりそうです。暖房のある部屋で過ごすのも心地よい時間ではありますが、最も寒い時間に最も寒い場所へ、雪の多い時に雪の多い場所へ出かけてみると、驚くほど美しい冬に出会うことができます。冬は夏にはならず、冬の面白さはやはり冬だけのものなのです。その冬が一歩、二歩と北へ戻り始めようとしています。春が近づいてくる嬉しさと同じ分だけ、寂しさもやってきます。
2021年02月15日
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