中休み
霧の中なのか、雲の中なのか、それとも小雨の中なのか、手に持ったカメラにはあっという間に小さな水滴がつきます。ばふっと風が吹き上がってくると、体が一瞬にして冷やされて震えそうですが、風のないところでは、じんわりと汗がにじんできます。雨具の外側も内側も、湿度は100%という感じです。
少し前までは、お花畑などは青空の下で眺めるのが何よりのご褒美でしたが、今はこんな日に眺める方がいいかもしれない、と思えてきます。人の往来は少なく、静かな時間が長く訪れます。その間にも、花畑は霧の奥に浮かんだり沈んだりを繰り返します。花たちもびっしりと水滴をまとい、薄い花びらのチングルマなどは重たそうに顔を持ち上げていますが、最初からうつむき加減のコイワカガミなどは、鮮やかなつつじ色を一層濃く浮かび上がらせています。
重くなった足が止まる度に、鳥たち澄んださえずりが耳に届きます。遠くが見通せない日は天敵の攻撃を受けにくく、小さな生き物たちは動きやすいのかもしれません。シマリスかナキウサギか、ピチッという声も響いてきます。人間にとっても、強い日差しを避けて、混雑を避けて、夏の中休みのようなしっとりとした霧の日はよいのかもしれません。乾いた心も、静まるような気がします。
2021年07月12日
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