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燕去月

 雨が降り出しそうな夏の夕暮れ時には、よくツバメが飛びます。先日も、橋の上を渡っている時に、川の上を何度も行き来する姿を見かけました。いつもの景色と変わらないようにも見えましたが、ふと、間もなく彼らはここを去っていくのではないかな、という予感が頭をよぎりました。
 7月のうだるような日々は落ち着いて、昼間に気温が30度を超す日であっても、夜にはひんやりと静まります。そこにはもう、秋の気配がぷんぷんと漂っていて、朝早くに聞こえてくるシジュウカラの鳴き声などは、冬のそれに近づいているような気さえしてきます。我に返ってカレンダーを見ると、まだ8月の半ばを過ぎたばかりです。なんだか気持ちばかりが季節の先へ先へと誘われているようです。
 数年前の今頃、自宅の窓から、今までにないくらいの数のツバメを見たことがありました。ものすごいスピードで飛び交っているのはいつものことですが、仲間たちがひとところに集まり、何かを確認し合っているような、そんな雰囲気でした。住宅地の真上に100を超える数のツバメを見たのはもちろん初めてでしたから、当時は「地震でも起きるんじゃないか」と本気で思ってしまったほどです。実際には地震は起きませんでしたから、今となっては、あれは越冬のために南下する準備だったのではないかと思っています。
 陰暦の8月は"燕去月"とも呼ばれたそうです。今の9月頃にあたりますが、ここでは本州よりもひと月ほど早く、秋や冬へと季節が進みます。やはりもう、夏鳥たちの気持ちが南へ向かう時期になっているのでしょうか。

2021年08月23日

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