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夢うつつ

 早朝、眠気覚ましの休憩にと車を止めたのは、畑と林に挟まれた道の途中でした。主要道路からは外れた、地元の人たちが利用するような道で、もともと交通量は多くはありませんが、この時間帯ではすれ違う車もありません。あいにくの曇天ですが、頭上は柔らかく澄んだ新緑が覆っていますし、林床にはオオバナノエンレイソウが咲き、シダ植物の淡い緑の葉も敷き詰められていますから、不思議な明るさを感じます。
 少し新鮮な空気を吸おうと、車を降りてみてびっくりです。圧倒されるほどの鳥の鳴き声で、辺りが満たされているのです。さっきまで、ラジオからノンストップに流れる音楽を聴き続けていたのに、突然別の世界に迷い込みました。容赦ない夕立に降られているような、音の洪水の中に佇みます。
 どの鳥も、姿は見えません。鳴き声から判別できるのは、残念ながらツツドリやキジバト、ウグイスやオウジシギぐらいですが、ミソサザイやキビタキもいそうでした。金属を叩くような高い音で鳴くもの、歌うように長く調子をつけるもの、響く低音を繰り返すもの、実際には、もっと他の種類の鳥も混じっていることでしょう。それぞれの声は優雅なものかもしれませんが、それらが大合唱となって鳴り続ける音は、ぞくぞくと怖さを感じるほどの迫力です。
 どういう訳か、ここは人間の世界と隣り合っている感じがしませんでした。がさがさと林に分け入ったら、この大合唱はぴたりと止んで、林ごと、嘘のように消えてしまいそうな気がするのです。実際にそうしたら、林は消えずとも、きっと鳴き声は止んでしまうことでしょう。鳥たちの声が、人間と別の世界との境界を分けているように思えてきます。人間の世界は、まだ夢うつつを漂う時間だったから、現れた大合唱だったのでしょうか。数分間、動画撮影で録音もしてみましたが、なんだか今でも、夢だったような気がしてしまいます。
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