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香る

 毎年春が早くなっているような感じがしていましたが、今年は特別早いと断言します。いつも5月の連休に咲くか咲かないかと待ち焦がれていた桜も、今年はもう満開です。連休明け、ビートの苗を植え終わった頃に、見計らったかのように吹き荒れる日高おろしも、既に始まっています。
 季節がいつもとは違ったスピードでやってくるものですから、どこへ向かったら良いものかと、頭の中もうまくまとまりません。カタクリの花はもう終わってしまっているだろうか?エゾエンゴサクはもう満開になっているかもしれない?すっかり調子が狂ったままです。いつもなら、春を感じようと南へ向かうのですが、いっそのこと・・・古い記憶を引っ張り出して、北へ向かうことにしました。
 山の上を吹雪かせていそうな雲を見ながら走ります。案の定、目的地に着いた頃には横殴りの雪です。帯広へ越して来た頃に一度だけ来たことのあるこの場所は、随分と記憶も遠くなっていました。大雪山系の裾野まで広がる、気持ちの良さそうな牧草地と隣り合っていたのかと、改めて新鮮な気持ちで眺めます。
 独特の強い芳香があたりを包み始めました。
 当然のことです、これだけの水芭蕉が咲いているのですから。気が付けば、強い風に雪雲も押し流されて、光が差し込み始めていました。想像以上の強い香りに、ほろ酔いながら木道を歩いていくと、花の群落は、明るい林の中を、小川の上流へと続いていました。バイケイソウやネコノメソウ、エゾノリュウキンカも、それぞれに新緑の色を添えています。帰り際にアイヌネギも沢山生えているのにも気づき、葉っぱを触ってみましたが、水芭蕉の香りが強すぎて、他の匂いは打ち消されてしまいます。
 絶え間なく流れてくる雪解け水は、まだ凍えるような冷たさでしょう。その中で咲く花たちの強烈な自己主張は、冬の勢力がまだ残っているこの季節を、ぐっと春に傾けてくれているのかもしれません。


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