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トウミツ

 
「トウミツ」と聞けば、当社の社員ならばちょっと身構えて「糖蜜」を想像することでしょう。でも私がこのところ気になっているのは「盗蜜」の方です。
 農業の盛んな北海道で、作物の受粉に利用するために持ち込まれたのがセイヨウオオマルハナバチ。北海道の冬を越せないミツバチに代わる存在として選ばれたものの、野生化した個体が在来種を駆逐してしまったり、花弁に穴を空けて蜜だけを吸うため(盗蜜)、受粉に依存する植物の数が減少してしまうというという副作用が明らかとなってから、今では特定外来種の代表格となってしまいました。そんな情報があったからか、盗蜜と言えばセイヨウオオマルハナバチと思っていたのですが、実際に見えてきたのはそう単純な構図ではありませんでした。
 写真ではエゾノツガザクラで在来のマルハナバチがまさに盗蜜の真っ最中です。隣の花には盗蜜されたときについた小さな穴が見えています。この辺りのエゾノツガザクラには、ほとんどに穴が開いていましたが、外来種のセイヨウオオマルハナバチの姿は見られませんでした。
 高山植物の生息域は強い風が吹くため、風媒花はあまり見られません。風で無益に花粉が飛ばされないよう、また虫たちを確実に集めて花粉をつけて運んでもらえるよう、花弁の色や形が特徴的に進化したと言われています。なので、盗蜜の横行は植物の繁殖にとっては、種の未来を揺るがす由々しき事態とも言えるでしょう。
 一方で昆虫の側から見れば、少ないエネルギーで最大限の利を得ることは、動物が生き残るために必要な戦略と言えます。小さな花に無理やり潜って蜜を吸うよりも、花びらに穴を空けて蜜にありついた方がずっと楽です。そして、今年特に感じたのは、暑さの影響からか、どこも花の数が少なく、また花の大きさも小さくなっているということです。ころんと丸いマルハナバチが潜りこめるほどの大きさではなく、一つの花が蓄える蜜の量も少なくなっているとすれば、虫たちはいっそう省エネルギーで沢山の花を回らなければいけなくなることでしょう。
 こういった小さな負のスパイラルが、あちらこちらで起きているのかもしれません。何百万年という時間をかけて獲得した進化が、何億年という想像もできないような長い時間生き延びてきた種が、数百年という地球の歴史からすれば一瞬にも満たない時間で危機に瀕しているかもしれません。彼らは種を存続させることに強かであることも知っていますが、それ以上の環境の変化が起きていることも私たちは知っています。小さな花と虫の攻防から響いてくる警笛に、胸がざわめいてしまいます。
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