命の選別
日が落ちてぐっと冷えた空気を顔に受けながら十勝大橋を渡っているとき、かすかに海の香りが混じっているのに気が付きました。もう9月も末だし、サケが海から上って来ているのかもしれない・・・、この週末は堰堤に行ってみよう、そう決めていました。
河川工事の影響で流れが細く穏やかになってしまった右岸の水路は静かなもので、時折数羽のカモが通り過ぎる他、動物の影がほとんどありません。目当てのサケも、たった1匹、ゆらりと泳いで行くのを見送ったきりで、コロナ禍前に、沢山のカモメたちを引き連れながら、イモを洗うようにひしめき合って遡上してきた景色が嘘のようです。
寂しい気持ちを確認するばかりの静かな川辺で、するすると水中を近づいてくる生き物がいました。ザリガニです。最後に川でザリガニを見たのは小学生の頃ではなかったかと思いますが、その古い記憶と照らし合わせても随分と大きく見えるその姿に、う〜ん・・・と唸ってしまいました。これはウチダザリガニでは!?名前からすると在来種のように聞こえますが、特定外来生物に指定されている北米原産のザリガニです。
アメリカザリガニのように後ろへジャンプするように逃げるわけでもなく、浅瀬だったこともあり、簡単に岸へ引き上げることができました。堅固なハサミをふりかざす重量感のある体をひとまず確保して、改めて調べてみると、やはりウチダザリガニでした。
困ったことになりました。特定外来生物は飼育や自然界へ放つことはもちろん、生きたまま運ぶことも法律で禁止されています。再びリリースすることも、どこかで保護してもらうこともできないということは、今ここで命を絶たないといけないということとイコールなのです。進んで魚釣りにでも来たのであれば、心理的にも抵抗は低いのかもしれませんが、全く想定していない場面で突然迫られる命の選別ほど動揺させられるものはありません。
さて、意を決した後の詳細はここには記しませんが、この一件にはさまざまなことを考えさせられました。書ききれないほどです。ただ、川が静かで何もないと寂しく感じたその前まで、時間を巻き戻したいような気持になったことだけは確かです。