樹氷
樹氷が見られるのは、一年でも最も気温の低い時期だと思っていました。実際、帯広の市街地では、1月や2月の気温がマイナス10℃を下回るような、まさにしばれる朝に見られることが多いのです。北海道ほどの広さがあれば、冬の進む早さにもその程度にも濃淡があることは想像に難くありませんが、霜月の声を聞いてほどなく、こんなに美しい樹氷を見たのは初めてでした。
帯広から峠を越えた先に見え始めた十勝岳連峰は、すっかり白化粧を終えていました。カラマツの黄金色と雪を一緒に見られるところがないかと探しつつ、十勝岳温泉へ向かって山道を進んでいった先に広がっていたのは、樹氷に覆われた林でした。
外気温を示す車内の表示は、山へ向かっていくにしたがって下がったものの、せいぜいマイナス1℃か2℃位までで、痛いほど寒いという訳でもありません。それでも、辺りの植物は皆一様に真っ白な樹氷で覆われ、太陽の光をきらきらと散乱させていました。何だかキツネにつままれたような気持ちです。
でも、考えようによっては、美しい樹氷の見ごろは、今なのかもしれません。山沿いでは既に根雪の様相ではありますが、それでもまだ数センチほどの厚さです。あと1ヶ月もすると、今とは比べようもないほどの雪が積もり、背丈の低い草たちはすっかり埋もれ、幹の細い木は雪の重さに耐えきれずに、大きく頭を下げてしまうものも出始めます。しっかりとした草木の立ち姿を残しながら、氷の粒をまとった林を隅々まで見渡せるのは、この時期に限られるのではないかと思うのです。
紅葉の季節が終わり、白銀の世界へと変わるまでの間は、どことなく、ただ寒いだけの時間が過ぎていくように感じていました。また、山の季節の流れは、時間差で平地へも移ってくるものだと思っていました。でも、決してそうではなかったようです。山は、日ごと雪を集めてみたり氷を集めてみたり様々に姿を変え、またその流れはそっくりそのまま、私たちの周りへ下りてくるものでもなかったのです。自然が移るということの面白さを、改めて知った思いです。
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