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リーダー

 北海道に住んでいれば、エゾシカは決して珍しい生き物ではありません。でも、十勝の辺りではオスの群れに出会うことはあまりありませんでした。ほとんどは大きな角をもたないメスと子供たちの群れか、単独のオスばかりです。
 雪深い山地から、餌を求めて下りてきたエゾシカが集まると聞いた野付半島を訪れてみると、夏の間、太陽の光をきらきらと散乱させていた水面は、氷結してどこまでも広い雪原へと変わっていました。そして静かな景色の中に、確かに、沢山のエゾシカの群れが見え始めました。
 初めに会ったのは大きなメスの群れです。湾の手前にも奥にも幾つも群れができています。砂嘴の先へ向かっていくと、今度はオスの群れを見つけました。大きな角をもった立派なオスの群れです。去年の秋にはその角を果敢にぶつけ合って、パートナーを奪い合ったであろうオス達も、今は、雪を掘り返してわずかな餌を探すのに必死の様子です。
 そして、車を止めた道路から一番近い位置に、不思議な角をもったオスがいることに気づきました。毎年生え変わるエゾシカの角は、そのたびに枝別れを増やして上へ伸び、最終的に3又4尖になるそうですが、このオスは下側にも枝分かれして5又6尖、一部はヘラジカのように平たくなっているように見えます。

 エゾシカのオスが角をぶつけ合ってメスを奪い合うことは有名ですが、多くの場合、その角の大きさで勝敗が決まってしまうのだそうです。そして、それは群れの順位にも関係してくるそうです。つまり、大きな角をもつオスが、最も強いオスということになり、群れのリーダーとなるのです。1枚目の写真では、確かに、角の大きさの順にオスたちが列を組んでいるように見えます。そして、武骨ではありますが、いくつも枝分かれした角をもったこのオスも、もしかしたら群れのリーダーなのかもしれません。近くて遠い春を前に、空腹に耐えながら群れの最前線に立ち、危険に目を凝らし続けるのは、きっと大変な事でしょう。でもそれがリーダーの一番大切な役目。静かな目がそう言っているような気がしました。

2016年02月29日

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