渡り
北に伸びた日高山脈の上には中綿のような白い雲が広々と敷かれていましたが、振り返った太平洋は青々と輝いていました。山の上からは、雷鳴と思われる鈍い音がズーン、ズーンと何度も響いてくるのに、海は風も凪いで、カモメたちがうとうとと昼寝をしています。こんなお天気の日もあるのですね。
突然、遠くから白鳥の鳴く声が聞こえてきました。姿を探すと、南の方から美しいVの字で(正確にはYの字と言った方がよいでしょうか、先頭の数羽が一列に並びその後ろにVを組んだ形でした)、20羽を超える白鳥の集団がまっすぐ飛んでくるのがみえました。Vの字はやがてゆるやかなU字となり、まっすぐな一列へ、そして再びVの字をつくりあげました。純白の鳥たちは迷うことなく北東を目指し、青い海と青い空の間を、煌めく光と混ざり合いながら、あっという間に見えなくなっていきました。
フィルム映画をコマ送りしているかのような不思議な感覚で見送りながら、もうそんな季節なのかと改めて思い返しました。暦を見れば春分もすぐそこ、北へ帰る鳥たちが本州から渡ってきてもおかしくない時期なのです。湖の氷が融け始め、木々の芽がふくらみ始め、生き物たちが新しい命を迎える準備は着々と進んでいました。
2016年03月14日
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