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霧中

 視界の悪い朝は、空からの天敵に見つかりにくくなるため、小さな生き物たちにとってしばし安息の時です。霧の中からは、ウグイスのホーホケキョ、ケキョケキョも、コガラのヒナたちのチチチも、絶え間なく響いてきます。エゾシマリスのチッ、チッという小さな声も聞こえていたので、もしかしたら姿を現すかもしれないと期待していました。
 いつもであれば、初夏の花々と絶景を目当てに引きも切らない人影は、この天気の中で、前にも後ろにも見当たりません。そんな山道をつづら折りに何度も曲がった先に、すばやく横切る影を見つけました。すぐさま歩みを止めて、しばし息を殺します。すると、背中に黒い縞をもった小さな姿が、するするっと戻ってきました。
 彼らの大好きなアザミは、やっとつぼみが大きくなり始めたばかりなので、道端でご馳走を堪能するには少し早い時期です。何をするのかと思ったら、道の真ん中の石をくわえて持ち上げ始めました。ええっ?!それはさすがに重くて運べないでしょう。えいや!とばかりにその石が転がると、今度はもっと大きな石の下に体を滑り込ませて持ち上げようとします。再び、ええっ?!一度体を引き出して、「無理かな?」というような表情をするのですが、また同じように隙間に頭を入れて、持ち上げようと試みています。何度かそんな姿が繰り替えされましたが、遠くから話し声が響いてきたと思ったら、瞬きする間もなく、藪の中に逃げ込んでしまいました。
 生き物の気持ちはわからないものだと理解していても、一体何をしたかったのか、知りたい気持ちが大いに刺激されてしまいました。でも、こんな姿を見られる機会はもう来ないかもしれません。深い霧が見せてくれた、一時の夢だったようにも思えます。


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