神秘の湖
北海道三大秘湖の内、二つが十勝にあります。ひとつは、度々写真を掲載しているオンネトー。もうひとつは東雲湖です。東雲湖は、三ヶ所中で唯一、徒歩でしか行くことも見ることもできない、まさしく秘湖です。
東雲湖への道は、大雪山国立公園の南東の端、白雲山と天望山の裾野を沿うように3キロほど続いています。左手に、透明度の高いこれまた美しい然別湖を眺めながら進みますが、うっそうとしたけもの道を、草木をかき分けながら、ごろごろした石や木の根に足を滑らせないよう、しつこい藪蚊に刺されないよう気をつけながらの1時間半は、思っていた以上に長く感じられます。
でも、神秘の湖へいざなう道では、これまた神秘的な花を見ることができました。昨年は一度も目にすることができなかった銀竜草です。奥へ進むにつれて、あちこちで白く光る姿を見ることができました。雨がちだった天気のお陰なのかもしれませんが、これだけでも、来た価値があったというものです。
いつの間にか然別湖も見えなくなり、すれ違う人もいない木のトンネルを奥へ奥へと進み、まだ着かないものかと不安が頭をかすめ始める頃、明るい岩場が開けてきました。ゴゼンタチバナやコケモモ、イソツツジの甘い香りが漂い、鳥の声だけが聞こえるとても静かな空間です。そして、やっと東雲湖が見えてきました。
苦労してここまで来たのだから、さぞや素晴らしい景色だろうと期待してしまうのが人の常ですが、大きく育ったシラカバやダケカンバに囲まれて、残念ながら、秘密の湖はそう簡単に全容を見せてはくれませんでした。写真は、胸の高さまであるササやぶをかき分けてなんとか湖畔に近づき撮った1枚です。足場も悪いので、近くにとどまることもできず、すぐに離れた岩場へ戻らざるをえません。
それでも、時折、風が弱まり雲の切れ間から青空がのぞくと、草木の緑と相まって、湖面に美しく映えました。そして、どんなに耳を澄ませても、聞こえてくるのは鳥や風、水の音だけ。身体の中が清々しいもので満たされていく贅沢さは、今の時代、なかなか味わえるものではありません。
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