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けもの道

 極寒の摩周湖を歩くのが、この冬楽しみにしていることの一つに含まれていました。摩周ブルーと真っ白にきらめく樹氷の景色を見てみたかったからです。水深が200メートルを超える摩周湖は、その水量の多さから湖面が氷結しにくく、この時期でも青い水を見ることができる道内でも数少ない湖なのだそうです。
 早朝、霧ひとつない紺青の摩周湖が広がっていました。残念ながら、前日までの低気圧の影響で風もあったためか、樹氷を見ることはできませんでした。それでもせっかくなので、スノーシューを履いて歩いてみることに。摩周湖の第一展望台から対岸に見える摩周岳頂上まで約7キロの登山道が敷かれていますが、最後の1キロを除いては、高低差の少ない歩きやすい道が続いています。
 スタートしてすぐは、人のものと思われる足跡がいくつもありましたが、その踏み跡がなくなり、かつてあった足跡も新しい雪に埋もれてしまった道をどんどんと進んでいくと、どこからともなく二爪の足跡が合流したり、横切ったりするようになりました。その数はかなりのもので、夏の間、私たちが我が物顔で歩いていた道は、今はすっかり彼らのものとなっているようです。
 ところどころ現れるダケカンバの林に入ると、雪は深くなり、登山道の区別がつかなくなりました。すると、今度はけものの足跡が道の目印になることに気づきました。彼らの歩いてできた道は、安全が確保されているからです。けもの道に導かれながら歩いていると、エゾシカの鳴き声が響きました。湖に接した崖の上に姿を見つけると、明らかにこちらを気にしているようです。侵入者への警戒の声だったのかもしれません。
 スノーシューは柔らかな雪の上に、幅30センチ、長さ60センチの大きな足跡をつけます。私たちが帰った後、彼らは「また奇妙な足跡の動物が通ったものだ」と話し合っているかもしれません。道中、すれ違った人間はたった一人。でも、終始不思議と寂しさを感じることのない道でした。

 (ファスナーのような不思議な足跡はネズミのものだそうです。一見するとササの根本までの1本道。帰りはどうしたのか気になります。)

2015年12月21日

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