時間
「時間だけが解決してくれることもある」物語の中でさらりと放たれた言葉の端が、心に留まりました。学生の時分であれば、そんなこともなかったかもしれません。これもまた、時間だけがなせる技なのでしょうか。
今週のヒューエンスを読んでくださる方からは、時折、「毎週の更新は大変だね〜」と声をかけていただくことがあります。確かに、月曜日がやってくるたびに言葉を捻りださなければいけないわけですが、美しい世界を美しいと伝えるのは、実はそれほど難しいことではありません。ありのままを伝えればよいだけだからです。むしろ、どうその美しい世界へアプローチするか、ということの方がずっと難しいことに近頃気づきました。
雪の写真を撮りに出かけたつもりでクマゲラに出会ったり、カモを見に出かけてオオワシを見つけたり、というのは幸運な転び方で、実際には思ったとおりの収穫を得られないことも沢山あります。去年よりも雪解けが早いのに、まだショウジョウバカマが咲いていない、去年は大勢集まっていたハクチョウのえさ場に今年は一羽も見当たらない、この冬は一度も幻日が見られなかった、自然は一人の頭で予測しうるほど、単純なものではありません。でも、会いに行かなければ、会えなかったという経験すらも残りません。花が咲いていなければ鳥の声を聞いてみよう、鳥も飛んでいなければ雲を見上げよう、雲が厚ければ森を見に行ってみよう。そうしていくうちに、パズルのピースが埋まるように見える世界が広がり、ぼんやりとしていた物事の輪郭に新たな線が書き加えられていくことになります。
若々しさに魅力がある一方で、時間を重ねることでしか得られない奥深さというものもあります。毎週月曜日、自分を棚卸しするかのようにこの原稿を書いていると、そんな未来に少し近づけたような気がして、また次の月曜日が楽しみになるのです。
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