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 まだ桜が咲いていない場所もあるというのに、何故か5月の一時期、日本で一番暑い日が北海道に訪れます。先週末はそんな日が続きました。暑さに茹であがってしまったかのように、辺りは白くかすんでばかりいたのに、何故かこの日の空は朝から深い青でした。
 北海道の屋根にはまだ雪が多く残り、いつもの年であればこの場所を訪れるのは、ひと月は先のことです。でも、どうしてもこの日に行きたい場所がありました。幻の湖です。この時期、わずか1週間ほどしか現れず、雪に覆われた山道を長時間歩かねばならないため、目にすることができるのはほんの一握りの人だけという場所です。
 歩き始めてすぐに現れる雪の急登では、ひたすらに呼吸を整え、一歩一歩を確実に進めることに集中します。目指す最初の頂を探して視線を上げると、雲ひとつない薄群青の空に、ダケカンバの枝が白く浮かんでいました。まだ硬く閉じているように見えた新芽にも、かすかに若葉の色が混じり始めています。
 不思議と疲れをあまり感じることなく、最初のポイントにたどり着きましたが、予定していた時間よりも既に1時間多く費やしてしまっていました。雪のない反対側の斜面を下り、再び現れた巨大な雪渓に挑みましたが、ここでタイムアップ。これ以上進んでしまうと帰ることができなくなってしまいます。あの先に湖があるのだと分かっていながら、引き返さなくてはいけないことは本当に悔しいことです。来年にまたこんなチャンスが来るかは分かりません。もっともっと鍛えていれば行けたかもしれません。そんなことばかりが頭をぐるぐる回り始めた途端、自分の体がずっしりと重く感じられました。
 神々の遊ぶ庭に現れる、幻の湖を是非見てほしかった、それを叶えることはできませんでした。でもその代わり、まだやるべきことが沢山残っているのだと教えられた気がします。幻を幻のままで終わらせないために、今やるべきこと、できることをしなさい、と。

2016年05月23日

カテゴリ
今週のヒューエンス
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