覗き込んで
朝の6時半、三国峠の松見大橋には、ダウンジャケットを着込んだカメラマンが何人も並んでいました。それに気付いて後ろを振り返ると、秋色が光に包まれて辺り一面がキラキラと輝いていました。その時は、このページで是非その景色を紹介しようと思っていたのですが、まさにこの日の地元紙夕刊に、見事な航空写真が掲載されていたので、残念ではありますがここは引かざるを得ません。
さて、いち早く紅葉が始まった山々の頂きは、この朝はすっかり新雪に覆われていました。ダケカンバの葉もすっかり落ちて、その特徴的な幹が山の中腹に柔らかな白を加えています。1週間前は人の波で溢れていたであろう高原沼も、今は人影もまばらで、撮影スポットの順番待ちをすることもなく、景色に人影が入り込む心配もなく、気持ち良く歩くことができます。ダケカンバ同様、多くの木々が枝ばかりになっていましたが、湖面に映る白い山々も、草紅葉の広がる高原も、このゆったりとした時間を彩るには十分です。
歩き始めて1時間半ぐらいでしょうか。大学沼に到着しました。高根ヶ原から切れ落ちたような斜面が眼前に広がり、沼巡りコースの中でもダイナミックな景色が楽しめる場所です。小学校に上がるか上がらないかくらいの男の子が、周りの景色には目もくれず、沼の中を覗き込んでいました。あまりに熱心な中腰姿が可愛らしく、思わず1枚。ぬかるんだ山道で転んだそうで、ズボンには大きな泥の跡がついていましたが、気にする様子もなく、沢の中を進んで歩き、休憩中も沼の中が気になって仕方がありません。その気持ち良く分かるな〜、と思うのです。見慣れない植物が生えていたり、小さな昆虫や魚が泳いでいたり、陸上とは少し違う世界だからでしょうか。生き物を育む水の中は、ちょっとした小宇宙なのです。間もなく厚い雪と氷に閉ざされるこの時期は、生き物の数は少ないように見えました。でも、先入観にとらわれないまっすぐな目は、私には見えていなかったものを沢山見つけ出しているかもしれません。何が男の子の視線をくぎ付けにしたのか、実はこの日一番気になった景色だったかもしれません。
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