森の時間
太陽の光がさんさんと降り注ぐ中でも、トドマツやエゾマツが高くそびえる針葉樹の森には涼やかな風が通ります。濃い影が落ちる足元には、若い緑の苔が、まさに土へ戻ろうかという朽木たちを覆い、その上にまた、エゾマツが小さな芽を出しています。晴れた休日でも前後に人影は見当たらず、新鮮な空気を独り占めという、この上ない贅沢を味わいます。
「チッ」と短い鳴き声が聞こえました。カサカサと草の葉が揺れ、案の定、現れたのはエゾシマリスです。苔のステージに上り、辺りを見回す途中で目が合います。今年最初のシマリス遭遇に、心が弾む人間側の気持ちを知ってか知らずか、再び「チッ」と鳴いた後、ぴょんぴょんと駆け出しました。すると、続いてもう一匹のシマリスが同じ苔のステージに上がってきました。先ほど鳴いた声は、このシマリスへの合図だったのでしょう。夫婦なのかなぁ、それとも親子かなぁ。少し離れた場所で、それぞれが木の芽を口に運んでいる姿を見守ります。
山歩きをしていると、彼らに会う機会は年に何回か訪れます。高木が無く、岩ばかりがごろごろしたような場所でも見かけることがありますが、そういう場所では、声は聞こえてもなかなか姿が見つからないことも多くあります。姿を現しても、すぐにまた、岩陰に入り込んでしまうのは、きっと猛禽類を警戒してのことなのでしょう。でも、森の中で会う彼らからは、そんな張り詰めた空気は感じられず、リラックスしているように見えます。木漏れ日の柔らかな、苔生した森の中は、日々のあわただしさからはほど遠く、ゆったりと時間が流れています。どこかに腰を下ろしたら最後、自分にも根っこが生えて、日が暮れるまで辺りを眺めて過ごしてしまうかもしれません。でも、例え一時のことであっても、そんな時間が、今の私たちには何より貴重だったりします。
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