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森の女王

 黒松内周辺のブナ林は、日本に自生しているブナ林分布の北限として、国の天然記念物に指定されています。ブナは緑のダム、また森の女王と呼ばれています。前者は、水を多く木の中に溜め込んで、それを少しずつ放出する力があるためで、後者は雄大で美しい立ち姿からだそうです。世界遺産に登録されている白神山地は世界最大規模のブナの原生林として有名ですが、北海道内でもブナ林が見られることを知ったのはわりと最近のことで、いつか歩いてみたいと思っていました。
 白っぽくするりと美しい肌をもったトドマツの木々や、オオカメノキの丸い葉が木漏れ日を作る林を進み、小さな山を登ったり沢へ下ったりを繰り返しながら20分ほど歩くと、やがてブナの木が現れ始めます。若いものはトドマツよりも滑らかな樹皮をもち、年を重ねたものはトドマツに負けないほど高く真っ直ぐ伸びたものもあれば、腕のようにしっかりとした枝を四方へと広げているものもあります。本州では、ツキノワグマが熊棚を作ることもあるそうですが、栗のような実は見るからに美味しそうですし、枝の分かれ目あたりで昼寝でもしたらきっと気持ちがよいでしょう。納得です。
 実は、気温は30度、木陰の下でも、沢を歩いても、立ち止まっても、じっとりと汗がにじんでくるような湿った空のもと、プ〜ンとまとわりつく蚊に辟易しっぱなしの森歩きでした。でも、母のようにどっしりと、それでいて柔らかなたたずまいからは、なぜこれほどまでブナが人を惹きつけるのか、その理由が何となく理解できるような気がしました。ブナの森は多くの生き物を育むと言いますが、人にとっても居心地のよい空気を、この木は作り出しているのでしょう。次はカラリと晴れた新緑の季節に是非訪れてみたい、そう思っています。

2018年08月16日

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