図鑑の名前
北海道の炎暑はひと段落しました。今は十勝らしいカラリとした夏の雰囲気です。こんな季節に野山を歩くのは、本当に楽しいものです。既に花を終えた植物は実をつけ始め、今まさに花畑を造っている植物たちの後ろでも、秋の草花が今にも咲きそうなほどつぼみを豊かにしています。きれいな花を見つける度に、嬉々としてカメラのシャッターをカシャカシャと鳴らしている姿は、差し詰め、蜜を探し当ててはぶんぶんと羽音を響かせるハチたちと変わりがありません。
家に帰ってから、草花の名前を調べるのが、また楽しみのひとつでもありますが、一方でカタカナの名前を覚えることが実は苦手です。花に限らず、生き物の図鑑の多くは種名がカタカナで表記されていますので、覚えたい意欲とは裏腹に頭に残らないということになります。私の好きな花のひとつに、チシマフウロという花があります。薄い青紫色の花は、真上の太陽ではなく、いつも道行く私たちに向けられています。そして、空が透けてしまいそうな薄い花びらには、細く濃い青紫の花脈が走り、その美しさに清楚さ加えています。一目ぼれをしたその花の名前を、当時ネイチャーガイドをしていた友人に尋ねたとき、チシマフウロという名前と共に、フウロは風に露と書くこと、それは風や露を集めているような花びらの形に由来していることを一緒に教えてくれました。つまりチシマフウロは、漢字で書くと「千島風露」となります。きっと、真上を向いた花であれば風を集めるという発想にはならず、横を向いているからこそ、風と露を集める花になったのでしょう。名づけた方の感性に敬服でした。
名前の漢字表記を知ると、記憶に残りやすくなるのと同時に、日本人の自然の生き物に対する感性を知ることが出来ます。そして、英語名を知ると、もっと面白いこともあります。早春の湿原に咲く清楚な花の代表である水芭蕉は、英語名ではskunk cabbage。あのくさいスカンク!?あまりに違う感性に、笑えてしまうようなこともあります。
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