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出会うこと

 朝一番の知床の湖は、まさに鏡のようです。数年前の同じ時期、この場所は朝から多くの車が駐車場の空きを待って長い列ができていましたが、今年は少し違いました。駐車場へはすんなりと入ることができ、知床五湖の地上遊歩道へ入るレクチャーを受ける人たちもわずかです。地震の影響が少なからずあるのでしょう。地元の方たちはやきもきしているかもしれません。でも、世界遺産のこの場所を、図らずも静かに散策ができるのは、ちょっと得した気分です。
 さて、今回は、初めて知床を訪れる方と、十数年ぶりの訪問という方と一緒でした。鳥たちのおしゃべりを聞きながら森を歩き、木々の香りがじんわりと身体の隅々にしみ込んでいくのを感じます。それだけでもすっかり満たされた気分になっていましたが、これ以上はないと言ってもいいような青空と知床連山とを映した二湖へ出ると、またため息が出ました。いつもは痛む足をかばいながら歩いていた方も、あまり景色の良さに、休むことなく二湖と一湖を回ることができました。
 皆大満足で帰ってくるも、「ヒグマが見られなかったのは残念」とのこと。遊歩道へ入る前のレクチャーでは、「ヒグマに遭ったしまった後のことを考えるよりも、まずは出会わないようにすることが大切」と教えられますが、それでも知床を観光で訪れる人たちにとっては、ヒグマを見てみたいという期待を切り離すことは出来ないのかもしれません。確かに、知床はヒグマやサケ、オジロワシにシャチといった動物たちが生き生きと暮らす場所でもあります。それゆえ世界自然遺産に登録されたと言っても過言ではありませんから、めったに来ることができない人たちが、ことさら動物たちとの遭遇を期待するのは当然のことかもしれません。ヒグマの影や音、においにおびえながら何度も山道を歩いた私とは、少し違う感覚なのだと改めて知りました。そして、私のそれも地元に長く暮らしている方たちのものともまた、違っているかもしれません。
 人々の感覚の差は、もしかしたらその場所をより魅力的にすることができるかもしれません。逆に、もしかしたら規制ばかりの窮屈な場所にしてしまうかもしれません。でも、いずれにしても、ここに暮らす生き物たちが、そして人たちが、この先もずっとのびのびと、生き生きとしていられることが大切です。そのことを、時々訪れる私たちこそが、心に留めておかなければいけないのではないかと思います。

2018年10月22日

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今週のヒューエンス
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