透ける羽
昔、チョウの鱗粉は飛ぶために必要なものだと教わった記憶があります。だからなのでしょうか。鱗粉が少なく羽が透けているヒメウスバシロチョウは、何だか、飛ぶことがあまり得意そうではありません。
しばらく湿った日や風の強い日が続いた後の晴れた朝、マルハナバチたちの羽の音がうねるように響いていました。暑さ寒さも彼岸まで、とは言うものの、既に山には秋の気配がやってきていて、ブルーベリーにそっくりなクロウスゴの黒い実や、ザクロの果肉に似たコガネイチゴの赤い実が、艶々と実っています。平地よりもずっと季節が凝縮されたこの辺りでは、夏の晴れた日の貴重さも何倍にもなるのでしょう。
蜜集めに懸命なのはヒメウスバシロチョウも同じです。でも、ハチたちほど小回りが利かない彼らは、花に着地するというより、ぱさりと音を立てながら、"落ちる"と言った方が合っています。大きな羽が、周りの草にひっかかってしまうからのでしょう。飛び立つときも何やら窮屈そうに、ひらり、ひらりと次の花へと向かいます。
連日の暑さで身体が疲れていたこの日は、最終目的地は設けずに歩こうと出発しました。花が終わってしまった"花畑"の端に腰を下ろし、汗が引くのを待ちながらぼんやりと眺めていた景色の中で、ヒメウスバシロチョウの舞いはゆったりと心地よく映ります。独特の間とでも言いましょうか。力強さもなく、効率的でもない飛び方でも、表現を変えれば優雅で夢見心地、ということになるのかもしれません。今日は休日だし、急ぐことはないよね、そう代弁してくれているような姿に魅入られて、ついつい長居をしてしまいました。
2020年08月11日
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