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警戒心

 つぐみたちが、群れをつくりながらナナカマドの街路樹を飛び回っています。この辺りには毎冬やってきているはずなのですが、驚くほど人間の生活圏に順化していない様子で、車が一台通るたびに、高い木の上の方で、ざわ〜っ、ざわ〜っと群れが飛び上がります。警戒心の強さを目にするたびに、苦笑いと寂しさが入り混じります。
 何年か前、キクイタダキという小さな野鳥を保護したとき、その警戒心のなさにとても驚いた出来事がありました。手のひらに乗せても、飛び立とうとしなかった野性の鳥など初めてだったからです。普段、深い山で暮らしているこの鳥は、人との関わり合いが薄いために、人間に対する警戒心が根付いていないのだとの説に、なるほどと思う一方で、どのくらい関わりをもつと警戒心は芽生えるのだろうという疑問も浮かびました。警戒心が親から子へと受け継がれ、警戒心の強い個体が多く生き残り、やがて遺伝子に組み込まれていくまでに、一体どのくらいの時間がかかるものなのでしょうか。
 思えば、人間は、警戒される側の認識はもっていても、警戒する側であることを意識する場面はとても少ないように思います。もちろん、山に出かければクマに最大限注意をしなければなりませんが、山になど足が向かない多数の人たちにとっては、それもまた遠いものでしょう。そんな中、細胞一個の大きさよりもはるかに小さなものへの警戒心が、一年ほど経った今でも根付かないのは、もしかしたら当然のことなのかもしれません。でも、動物にとって、警戒心は生き延びるための最も重要なセンサーです。その感度は、自らの運命を分けることになりえます。野生の動物たちを見ていると、自然界から一線を画しているように思っていたその人間のおごりを、強烈に正されているような気が、時々するのです。

2021年01月18日

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