ほんの少しの
自宅で過ごす時間が増え、非日常に向かう機会はずっと減りました。それでも、北海道は広いですし、特に冬は、人が集まらない場所を見つけることは、そう難しいことではありません。非日常を求める気持ちがむくむくと起き上がってきたら、あてがなくても、とにかく車を走らせればよいのです。
というわけで、海へ向かって走り出しました。カーナビのない車に積んであるのは、学生時代からの相棒の地図だけです。初めて通る道で曲がった先は、海へ向かっているはずなのに、なぜか上り坂です。途中で舗装道路から砂利道へと変わりましたが、きちんと除雪もしてあるし電線も通っているので、きっとどこかへたどり着くはず、と信じて進みます。カーブの向こうが明るく見え、開けた場所に着くかも!との期待は、通行止めゲートの前で無情に消え去りました。
年代物の地図を使っていれば、そこは慣れたものです。めげることもなく来た道を戻ります。途中、落ちているのに気づいたトドマツの枝を拾って帰ろうと思いつきます。まだ青々とした葉がついていたので、部屋に飾れそうだったのです。うっすらと雪をかぶった枝を拾い上げました。思ったより大きな枝ぶりで、持ち上げた反動で雪が舞い上がりました。返り"雪"を全身に浴びて、何をしているのやら、と笑いがこみ上げます。そっと鼻を近づけると、さわやかな針葉樹の香りが、体中を満たしました。冬の香りに、ただ嬉しくなります。
結局、日没と雪雲に追われて、海へ行くことは諦めました。それでも、道に迷って、ほんの少し非日常を味わって、それだけで驚くほど気持ちは軽くなりました。
2021年02月08日
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