夜を駆ける
しばしの雨が、乾いた春の霞を洗い流し、澄んだ青空を残していきました。陽が落ちた後、水彩画のように透明な空を眺めながら、河川敷を走り出します。ほどなくして闇に包まれると、あたりは音と匂いの世界に変わりました。
桜の新葉の香りがひときわ強く、湿度をたっぷり含んだ夜に漂います。河畔林の方からは「ジュウ!ジュウ!ジュウッ!ズババババーッ!」と、航空機が急降下してきたのかと思うような音が、何度も何度も聞こえてきます。オオジシギです。チュピチュピンジュピンと、エゾセンニュウの鳴き声も、絶えず響いています。
日曜のこの時間帯は、犬の散歩をする人もいないのか、人の気配がありません。明かりの灯る家々が並ぶ人間の世界と、黒々とした森の獣たちの世界との境界線を、一人走っている感覚は、実に不思議なものです。人間の祖先の哺乳類は夜行性だったと言いますが、その遺伝子が半分覚醒するのでしょうか。他の生き物の気配を、耳から、鼻から、暗闇の中から嗅ぎ取るたびに、懐かしいような、わくわくするような、ぞくっとるするような感覚が走ります。生き物の熱量の渦に巻き込まれるように、人間と獣の狭間を行ったり来たりしているような感じです。でもそれが、妙に楽しかったりするのです。
2021年05月10日
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