雄阿寒岳
十勝の上だけ雲が無かったのか、峠はすでに低い雲が垂れ込めているのが見えました。夜に積もったものでしょう、上りにさしかかると、新しい雪がとけずに残っています。晴れ間を狙って出かけたはずなのに、十勝を出た途端に青空は隠れてしまい、目的だった景色はすっぽりと雲の中でした。食事はあらかじめ買い込んだ物を車の中でつまみ、トイレ休憩以外はどこへも寄らずに、と決めて出てきたドライブでしたが、あえなく退散です。
同じ道を戻り、再び峠の頂上辺りまで来ると、厚い雲の隙間から日の光が見えました。見晴らしのよい場所に出てみると、雄阿寒岳の裾野が見え始めているのに気づきました。太陽を背にした真っ黒い山は、自らの意思でそうしているかのように、まとわりついていた雲を後ろへとどんどんと押しやっています。姿を現した稜線は、なだらかに、やがて抱え込むように黒い森と一体となり、この主は自分だとでも言わんばかりの威圧感を湛えていました。
その中に立っていると、やり場のないもやもやが薄まっていくようでもあり、どうにもできない無力さの影が濃くなっていくようでもありました。美しい風景を、ただ美しいと眺めていられた日々は、少し遠くなってしまったのだと、今更のように知りました。
2021年05月06日
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