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霧の森

 十勝は気持ちよく晴れた日が多いことが売りでもあります。青空の下、夏はカラッと暑く、冬はピリッと凍れ、何というか、潔い気候とも言えるでしょうか。そんなところが気に入ってはいるものの、それだけでは物足りなさもあります。日曜の朝、川沿いに霧が立っているのを見つけたら、途端にそわそわし始め、起き抜けから10分と経たないうちに、カメラを抱えて車に飛び乗っていました。
 川へ近づくにつれて霧が濃くなります。数百メートル先には住宅街や幹線道路があり、車が行き交う音は聞こえてくるのに、橋の上に立つと、それらは深い霧の森に隔てられて、景色は隠されています。満月のように白く輪郭を露わにした太陽が見え、木々の影だけが濃淡を染めています。渡り鳥たちの声も響いてきますが、どうやらそれはこの川を泳いでいる鳥たちのものではなく、霧の奥から響いてきているようです。あいまいで、たよりなくて、モノクロームで、明け方に見る夢のような世界です。
 事実が見えないのは怖いことではありますが、物事が見えすぎても心穏やかではないこともあります。真っ白な霧に包まれて、どこから聞こえてくるのかよく分からない音に耳を澄ませる時間が心地よく感じられたのは、近頃、見ることばかりに偏り過ぎていたからなのかもしれません。そんなことを考えながら、振り返った帰り道の世界は、もう青空も、秋色の木々も透けて見え始めていました。さすが、やはり好天の十勝。

2021年10月25日

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今週のヒューエンス
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