西国の朝(出張編)
縁あって訪れたインドの朝は、賑やかに始まりました。まだ太陽の気配を感じない暗い空の下、ムクドリの仲間なのでしょうか、眠りから覚めた群れのおしゃべりが聞こえてきます。デリーの雑踏にも負けない喧騒です。でも、日の出が近くなると、その声は一時不思議なほどに静まります。
真っ赤な太陽が、低い森の奥から昇り始めました。霞んだ空に、曙色を滲ませていきます。鳥たちも、私と同じように言葉なくこの景色を眺めているのでしょうか。
赤が朱に、朱が黄金へと変わっていきます。さぁ今日が始まった、そう言わんばかりに、尾の長い鳥が空を横切り、真っ黒な鳥が美声を響かせ、スズメよりもずっと小さな鳥が花の蜜を吸いにやってきました。四方をさまざまな鳥たちに囲まれて、一体どちらを向けばよいのかと、とまどうやら嬉しいやらです。
次の朝、再び鳥たちを追いかけていると、地元の方にうながされて見上げた屋根の上に、一羽のクジャクの姿がありました。動物園の檻の中でしか目にしたことのないその大きな鳥が、あんな高いところまで飛べることを知りませんでした。首をすっと伸ばし、遠くを見つめるシルエットには、安易に人を近づけさせない雰囲気がありました。
思い込みは、自分の世界を知らず知らずに狭めてしまいます。見たことのある鳥ですら、そうなり得るのですから、どれほど情報化社会が進もうとも、自らの目で、本当の姿を見て得られるものの価値は、何物にも代えられないのだと実感します。
生き物も人も、日本とは全く違った密度を持った国は、今自分が持っている尺度だけでは測りきれない世界です。既成概念をもったまま見つめることはできないのかもしれません。それが魅惑的であり、心地よくもあり、最後には元気をくれるのでしょう。心が凝り固まっていると感じた時、またこの国へ来たいと思う気がしています。