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感性

 気がつくと、十メートルほど先にキタキツネが近づいてきていました。雪で小高くなった路側帯を歩いてきたところ、ふと、遠くの山を向いて視線が止まりました。驚くでも、怯えるでもなく、神経を一点に集中させた表情に、惹きつけられるものがありました。彼の耳はどんな音を拾い、彼の目は一体何を捕らえたのでしょうか。
 先日読んだ本の中で、先人たちは、少ない文章の中からでも、様々な情報を受け取れる能力があった、と書かれていました。遠い距離を行き来することがままならない時代では、言葉を厳格に使い分け、その意味を正しく受け取り、その後ろに広がる情景をも思い浮かべられることが、人と人とのコミュニケーションの中で、何より大切な事だったのでしょう。方や現代は、言葉は溢れているけれど、人と人の心が通じ合っているのか不安に思うことが沢山あります。
 野に生きる動物たちを見ていると、彼らの研ぎ澄まされた感覚には驚くばかりです。前触れもなく突然水鳥たちが飛び立ち、反対側の空を見やると、猛禽と思われる米粒ほどの影が近づいてきたということもありました。言語を持たずとも、そうやって生き抜いていく力強さを見ていると、私たちは言葉という道具を、過信しすぎているのかもしれないと感じることがあります。字面ばかりを学んでいても隠された情景が見えてくるようにはならないように、鳥のさえずりを聞きわけ、新緑の香りをかぎ分け、街の色が変わっていく様を感じ分けられなければ、言葉の本当の価値も知ることはできないでしょう。言葉と感性の歯車がかみあってこそ、人としての、また人同士のつながりの強さも生まれてくるような気がします。

2015年11月16日

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今週のヒューエンス
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