豊かな森で
世界自然遺産でもある知床は、日本で一番ヒグマの生息密度の高い場所です。食物連鎖の頂点に立つ彼らは、この時期、長く厳しい冬に備えて、川を遡上してくるサケやマスを狙います。北海道の豊かな生態系のシンボルとも言えるその姿を、一度は自分の目で見てみたいと思う人は多いのではないでしょうか。
連休に訪れた知床五湖で、ヒグマに遭遇しました。数百メートルほどの離れた先を、遠目にも分かる大きなヒグマが泳いでいました。幸い、私たちとは違う方向に向かって泳いでいきましたが、私たちと彼との間を隔てるものは何もありません。散策路に入る前にフィールドセンターで受けたレクチャーで、万が一ヒグマに遭遇した場合でも、決して騒いだり走ったり、刺激してはいけないと教えられましたが、次第に怖くなり、皆足早にその場を離れることしかできませんでした。
知床では以前、観光客が与えた餌をきっかけに、頻繁に人里に現れるようになったヒグマを殺さざるを得なくなったという過去があるそうです。奪わなくてもよい命を絶たざるを得なかったこの出来事は、たった一人のささいな行動でも、自然界のルールを破れば、大きな代償を払わなくてはいけないということを示しています。
知床の森を歩くと、直径が50?を超えるような太い木が沢山あることに気づきます。厳しい環境で、ここまで育つまでにどれだけの年輪を重ねたのでしょうか。豊かな生き物を育むこの場所は、心地よい空気で満たされ、本当に良い森なのだということが分かります。でも、決して人間本位で踏み込んでよい場所ではないのだということを、ヒグマたちが教えてくれているのかもしれない、ふとそう思いました。
2014年10月14日
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