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オンネヌプリ

 久しぶりに、わくわくする山旅でした。今年から増えた山の日の祝日も手伝って、少し長めになった休みに向かった先は斜里岳。知床半島の付け根にそびえ、アイヌの人々はオンネヌプリと呼び親しんだ美しい山容の主です。
 真夏日の地上の気温が嘘のような、涼やかな沢を登ってゆきます。この沢の水は、鉄分を多く含み、水中には藻などの植物がほとんど育たないため、足元が滑りにくく、天気さえよければ沢登り初心者でも挑戦できる山なのだそうです。赤茶けた川底を、飛び石を渡るように横切ったり、大きな岩をよじ登ったりしながら進んでゆきます。まるで四つ足動物だと我ながら可笑しくてなりません。

 高い岩壁に挟まれた谷の底にはなかなか太陽の光が届きません。見上げれば空は真っ青なのに、朝露をまとったように緑はどこまでも艶めいたままです。花びらが漢字の"大"に見えるダイモンジソウが、足元にも岩の壁にも可憐に咲いていました。大好きな花に出迎えられて足も軽くなります。

 岩に囲まれ見通しの利かない日陰道を進み、ぱっと光が差し込んだ場所へ突き出たかと思うと、目の前に滝が現れました。水蓮の滝、羽衣の滝、万丈の滝、見晴らしの滝、七重の滝、竜神の滝、そして霊華の滝。落差のある見慣れた形のものから始まり、階段を一段ずつ降りるような滝が現れ、最後の方はなだらかな広い岩肌をころころと水が転がる「これも滝?」と思うようなものに変わっていきます。次の滝が現れる度に、秘密基地を見つけた子供のように歓声を上げながら、また四つ足動物に戻って進み、やがて水が少なくなったところで沢は終わりです。
 楽しい時間の後のつらいつらい胸突八丁の登りをしのぎ切り、やっとたどり着いた頂上は360度の大展望です。台風からの風を受けた羅臼側は、白い雲海を突き抜けた緑の山々が美しく連なり、雲ひとつないウトロ側は、パッチワーク柄の平野とオホーツク海をどこまでも見渡せました。何と気持ちの良い見晴らし。下りるのがもったいないな、後ろからそうつぶやく声が聞こえてきました。きっと、その場にいた誰もが、心の中で大いに共感したはずです。

2016年08月16日

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