種を超えて
9月に入ると、山沿いの木々は少しずつ冬支度を始めます。あるものは赤に染まった後に、あるものは黄金に染まった後に、あるものはゆっくりと土の色へ近づきながら、大地へ戻っていきます。それは次の春を迎えるための準備だと思えばこそ、ただよう寂しさもなんとなく胸に納めることができるのです。でも、週末に見た森や林の姿はそんな季節の流れの中の変化とは違っていました。
平地では、葉の裏側ばかりがこちらを向き、艶やかさを失っている白樺が沢山見られました。きっと、枝先が傷ついて葉が枯れてしまう寸前なのでしょう。山沿いに入ると、周りの木にもたれるように倒れている広葉樹が沢山ありました。ゆるんだ地盤のために根が地面をつかみきれなくなってしまったのでしょう。何とか流されずに持ちこたえた木々でも、深いダメージを受けていることは明らかでした。50年、100年を越える年輪をもった木でも、もしかしたら今度の台風は初めての経験だったかもしれません。しくしくとした忍び泣きが聞こえてきそうな森は、いつか元気を取り戻すことができるのでしょうか。
やりきれない気持ちに占領されそうになったとき、もうひとつのことに気づきました。倒れかかった木々を支えていた針葉樹の存在です。きっと、一度地面に倒れてしまった木は再び立ち上がることはできないでしょう。でも、完全には倒れずに済んだ木は、また根を張って新しい葉をつけることができるかもしれません。かつては生きるための養分を、育つためのスペースを取り合ったであろう競争相手は、深い雪にも耐えうる強靭さで支えてくれました。でも競争相手と言っているのは人間の勝手な決め付けで、本当はずっと昔から、地面の深いところで補い合ったり助け合ったりしていたのかもしれません。今年の紅葉は、いつにも増して、目に沁みそうです。
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