いい場所
北の空が青いと、ついつい足が向いてしまうところがあります。上富良野八景のひとつ、十勝岳温泉です。温泉もあるし、景色も良いけれど、決して観光の要になることはない、どちらかと言うとひっそりとしたこの場所がどうして好きなのか、その理由を挙げればいくつでも出てくるのですが、一方で、言葉だけでは表わしきれない何かがあることも事実です。冬はとりわけ、黄金色にかすむ富良野盆地も、流れる雲の隙間から白い稜線が見え隠れするのも、温泉から湧いてくる湯気の中にダイヤモンドダストが吸い込まれていく様も、飽きる事がありません。
景色を眺めたり、写真を撮ったりしながらしばらく過ごしていると、何組ものグループが入れ替わり立ち替わりやってきました。少し驚いたことに、その9割は日本人ではありませんでした。山スキーが目的と思われる彼らは、コースの下見に来ているようです。あの谷から尾根へ登って、こう下りてくるんだ、明日の計画を興奮気味に話し、写真を撮りながら、本当にいい場所だ、明日が待ちきれない!と帰って行きました。見れば、木々の合間を縫ったシュプールが、既にいく筋も谷の底へと続いています。
辺り一面が雲に覆われてしまっても何だか去りがたく、しばらく車の中で過ごしていると、スキー板を担いだ外国人のグループが帰り際に笑顔を向けてきました。言葉を交わさずとも、ここを気に入っている者同士、何か伝わったのかもしれません。装備は何もありませんでしたが、彼らの笑顔に触発されて、長靴で少しだけ雪山を登ってみました。腰まで雪を踏み抜いてしまい、ほんの数メートルしか進めませんでしたが、それだけでも視界が変わるのを新鮮に感じました。北海道に住んでいる私たちの知らない絶景がまだあるのだと思うと、悔しい気持ちが起こります。次の青空には、スノーシューを携えて来よう!
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