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啓蟄

 朝、掃き掃除をするのに玄関の扉を開放する瞬間がとても好きです。冬はキンと身の引き締まるような空気が、夏はエネルギーに満ちた空気が、そして今は柔らかさの混じり始めた優しい空気が、一気に流れ込んでくる瞬間です。
 数ヶ月もの間、土の中で眠っていた虫たちが再び外へ這い出て味わう空気は、この比ではないくらい美味しいものでしょう。開けた窓からいつの間に舞いこんだハエに、まさにその日が啓蟄だったことを教えられました。思えば、南下していた白鳥たちも再びちらほらと見かけるようになりましたし、カモたちもペアをつくり一緒に移動しています。今年は雪解けが早いような気がする、などと呑気に構えていましたが、生き物たちの大切な季節はすでに来ているようです。
 どうにも遅れをとっているような気がしてきました。冬の間のやりたいことや見たい景色は、気象条件とタイミングとが合えば何度かチャンスのあるものが多いと言えます。一方で、春から秋の景色は立ち止まることがありません。走り出したら後は再び冬へ行き着くまで一気に進んでしまい、チャンスを逃せば次の年を待たなければいけないということです。急いで春から先の計画を練らなければと、焦る気持ちもむくむくと顔を出しました。
 タイミングを逃すということは、生き物としては、自身のそして子孫の存続に係わる危機に直結していますが、人間だけは、1年後、5年後、10年後という未来を描くことができるゆえに、季節に鈍感になってしまっているのかもしれません。いつも思うことではありますが、人として大切なことの多くは、ずっと昔から自然の中では当たり前のことばかりです。何かに迷ったり、行き詰ったり、上手くいかない時、答えを問うべき先は自ずと決まっているような気がするのです。

2017年03月06日

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今週のヒューエンス
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