落し物
3月ともなれば、気持は春です。去年の写真を見返しながら、もうそろそろ南の方の雪は融けているはず、と出かけてみましたが、大半はまだ雪と氷の世界でした。人の気配も感じない森の中は静かで、これはこれで気持ちのよいものです。晴れの予報があっさりと覆されて大粒の雪が降り始めても、久しぶりの森の空気が嬉しく、足取りも軽く感じます。
雪の上を踏みしめるように歩いていくと、つやつやとした黒っぽい小豆のようなものが落ちているのに気がつきました。大きさは大豆より大きい位で、まんまるです。何だろう、と転がしてみてすぐ気がつきました。大きく膨らんだ本体には不釣り合いな、細い糸くずのような足が並んで8本ついていたからです。飽血したマダニでした。ダニなどはヒグマの次に遠慮したい存在ですが、これほど立派に膨らんだ姿を見たのは初めてで、ただただ感心しながら転がして眺めてしまいました。きっとシカから存分に血をもらって、お腹一杯で雪の上へ落ちたのでしょう。
茶色い土の上にあってはなかなか気づくことのないものも、雪の上の落とし物は面白いほど目につきます。シカやウサギのフンや食べ残しが一番多いのですが、足跡も落し物の仲間のようなものです。動物でも人でも、足跡をたどっていくと、どんなところで立ち止まって、どんな景色を見ながら歩いたのかが想像できて面白いものです。そんな雪の上の落し物集めに夢中になっている間、私が残してきたのは、恥ずかしながら尻もちの跡ばかりかもしれません。でも後ろを歩く勘のいい人にはきっと的確な注意喚起になっているはずです、ここは滑る、と。
2017年03月13日
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