旅から帰って
大型連休の間、十勝を駆け抜けた桜前線も、山越えは難儀だったようです。霧の狩勝峠を越えると、春が始まったばかりの富良野盆地へ抜け出ました。残雪の山々を背に、淡いピンクのエゾヤマザクラと、乾いた畑の砥粉色と、柔らかな萌黄の木々が織りなす景色には、いつまた冬に戻ってしまっても不思議ではないような繊細な空気が漂っています。更に北へ進めば、まだ桜の声が届いていないところも沢山あるのかもしれません。
連休中の遠出でいつもとは違う緊張を味わった身体も、やっと落ち着きを取り戻したような気がします。旅に出かけたとき、現地でどんなに美味しい料理に出会ったとしても、気がつけばいつものご飯が恋しくなったり、家に帰って食べた最初の一杯に妙に落ち着いたり、という経験をしたことのある方も沢山いるのではないでしょうか。その感覚は時に、家へ帰りたいというホームシックを引き起こし、帰宅の途に着くきっかけになることもあります。お袋の味が懐かしくなるなんてこともよく耳にしますし、もしかしたら育った場所や、長く暮らした場所とのつながりは、望郷の念だとかの感情よりも、胃袋との方がより強いのかもしれません。
海外やへき地で仕事をしてきた先生が教えてくれたことがあります。地元を離れて身体の調子が悪いときは、必ず納豆ご飯を食べるようにしているそうです。それはつまるところ、納豆菌の力を借りて腸内フローラ(細菌叢)を整えるということです。旅という文化的な行為も、胃袋ひとつが行く先を左右しかねず、中の微生物のご機嫌が旅の良し悪しを左右しかねないことを考えると、自分では自身の身体を独立した存在のように思っていても、決してそうではないようです。裏を返せば、自らがよりよく生きるということは、自分を取り巻くあらゆるものにもつながっていて、例え日常のささいな行為であっても、大切にしていかなければいけないのだと改めて感じます。
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