野外
随分前のことではありますが、旅行で訪れた美術館の庭で、空から写した地球の写真展が開かれていました。青空の下、両手を広げても足りないくらい大きな台紙に、今まで目にしたことも無いような美しい地球の風景が映し出され、あまりの感動に、重さ2キロはあろうかという分厚い写真集を購入し、スーツケースに詰め込んで持ち帰った思い出があります。
先週末、以前から気になっていた写真展に出かけました。こちらも野外で、今度は生き物の写真です。緑豊かな丘や涼やかな林の中に、数々の作品が飾られ、皆が思い思いに驚いたり、感心したり、その場面を想像したり、感想を言い合いながら眺めています。スポットライトのような光を浴びながら渓谷で水を飲む動物の写真が、光の差し込む林のふちに飾られ、本当に川のせせらぎが聞こえてきそうな、そして蒸し暑い空気の中に野生のにおいまで漂ってきそうな感覚になりました。
野外の空気は、四角く切り取られた2次元の輪郭をあいまいにし、自分もまるでその一場面の中に立っているかのような感覚を呼び起こしてくれます。普段の私たちの生活は、多くが建物や車など構造物の中で営まれますが、その反面、五感を使って感じ取る刺激も随分と遮られてしまっているのかもしれません。同じ写真でも、室内で眺めたときには、全く違った印象をもつのではないかと思うからです。鮮やかな丘の緑も、沢の水の気持ち良さも、入道雲の唸り声も、採りたてのトウモロコシの甘さも、夕立前の土のにおいも、知らず知らずのうちに、何か記憶の奥の方をこつんと叩いて、元気を連れてきてくれます。冬の間はなかなか外で五感を解放してあげることはできません。暑いけれども、やっぱり夏にこそ、思う存分外の空気に浸りたいものです。
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