長い道のり
週間天気予報を良い意味で裏切って、週末は好天に恵まれました。待っていましたとばかりに、いつもよりも少し欲張って歩くことに。朝6時丁度に層雲峡を出発するバスへ乗り込み、秋には紅葉の名所となる銀泉台へ向かいます。そこから歩き始め、赤岳、北海岳そして黒岳の3つのピークをめぐって、層雲峡へ戻るルートです。
標高1,500メートルの銀泉台からは、まだ残る雪渓をいくつか渡りながら、高度を2,000メートルまで上げていきます。まだ歩き始めの元気な体で、一緒にバスに乗り合わせた人生の先輩方のグループを追い越しながら進みます。皆さん随分息が上がっているようでしたが、同じように追い越していく女性に「この花みたいに生きがいいな〜」などと話しかけて、何とも楽しげです。ガイドブックのタイムコースより随分早く赤岳の山頂へ到達し、2度目の朝食を楽しみます。天気は上々、風も爽やかで気持ちの良い1座目です。
赤岳から北海岳のルートは、大雪山の中でも固有種がいくつも見られるまさに花の道です。風衝地帯で雪の積もらない前半ルートの花のピークは早く、既に多くの種類は見頃を過ぎてしまっていましたが、それでも赤岳へ到達した人の多くは、更にこのコースへと進みます。後半のルート、白雲岳を回り込んで北海岳へ続く道へ進む人は少ないようで、前にも後ろにも人影が見当たらない時間が増えました。灰色のガレ場もいつの間にか緑にのみ込まれ、ヨツバシオガマやアザミが緩やかに揺れています。花の間を飛び回る虫たちの羽音が、驚くほど響きます。それほど静かな道のりです。
広い広い空の下、どこまでも続く緑の真ん中に立つと、道は果てしなく遠く思えます。疲れ始めた体には尚更です。でも、緑一色に見える丘に一歩一歩近づくにつれ、白いチングルマの花園が見え始め、やがて黄色いミヤマキンバイの花園へ遷っていることに気づくと何とも言えない感動が湧いてきます。歩いてみなければ決して出会うことのない花園を眺めているのは、今、自分たちしかいないのです。
だらかな丘を登りきり、残雪の残るお鉢平が眼下に飛び込んでくると、「いい景色だ〜」異口同音、誰の口からもそんな言葉が飛び出します。北海岳の山頂に到着です。特等席に腰を据えると、おにぎりやらチョコレートやらがどんどんとお腹に吸い込まれます。2L近く持ち込んだ水も、もう半分以上は体に留まることなく汗となって再び空へ戻っていっているかもしれません。できることならもっとここにいたい、それほど気持ちのよい場所です。
最後の黒岳の山頂へ到着する頃、晴れ渡っていた青空はいつの間にか霧に覆われていました。歩いてきた方角を振り返っても、もうその道を確認することはできません。迫る雨の影から逃げるように足早に下山を始めます。黒岳の道は距離が短いため、観光客でも気軽に登れる場所ですが、どうして傾斜のきついルートです。朝から歩き続けた疲労は、自分が思っている以上に蓄積しているようで、笑う膝との戦いになりました。最後、油切れのブリキのようになった足を引きずるように、やっとの思いでロープーウェイへ乗り込むと、登り始めに追い越した先輩グループも乗りこんできました。軽快に追い越したつもりが、結局のところは同じ時間に帰ってきて、しかも、どこの温泉に入るかをがやがやと話しながらまだ余力いっぱいの様子です。
長い道のりを歩くということは、どうやら奥が深いようです。歩き続けられるということには、体力や馬力だけでは説明しきれない何かがあるように見えます。そしてその境地に達すれば、道はもっと楽しいものになるようにも思えます。それが何なのか、今はとても興味があります。
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