学ぶべきこと
先々週はヒグマが土を掘り返した跡と新鮮な糞を見かけました。先週は水を飲みに来たようなヒグマの足跡を池の淵で見つけました。痕跡があれば、警戒モードへ切り替えて歩くことになります。大声で話したり、曲がり角や藪の前で笛を吹いたりしながら、人がいることを知らせなくてはいけません。嗅覚や聴覚に優れたヒグマの方から、先に離れてもらうことがお互いのために一番良いのです。
そんなときに必ず思い出すのが昨年の出来事。七十メートル位先で、ヒグマがまさに土を掘り起こしながら食事を摂っていました。よほどお腹が空いていたのか、はたまたよほど美味しいご飯だったのか、人の存在に気づいていながらも、立ち去る気配が全くありません。向う道の先にヒグマが居座っていたので、何人もの人が立ち往生していました。食事が終わるのを待つしかないかと諦めていると、驚いたことに私たちの後ろで待っていた人がおにぎりを食べ始めたのです。お腹を空かしているだろうヒグマの前での予想外な行動に、私は大慌て。「直ぐにお腹に入れてしまってください!」ヒグマの鼻にこの美味しそうな匂いが届き、こちらへ向ってくるかもしれない、そう思いすぐに食べきるようにお願いしました。幸い、この時は何事も起こらず、反対側からがやがやと歩いてきた人たちに驚いてヒグマも逃げて行きましたが、背筋の凍るような瞬間を味わったのは事実です。
知床や大雪山系には、ヒグマの生態や対策に関する講義を受けてからでないと足を踏み入れることができない場所があります。食べ物の持ち込みを一切禁止している場所もあります。ヒグマが、人間と食べ物とを結び付けて覚えてしまう危険性を回避するためのルールです。日本では北海道にしか生息していないヒグマの姿を、一度は見てみたいと思う方もきっと沢山いることでしょう。でも、冷静に考えると、ヒグマと対峙した時、逃げ得る足の早さも、攻撃し得る腕力もない人間の立場は、圧倒的に弱いのです。そのことを忘れて私たちが安易な行動を取ることは、決して良い結果をもたらしません。以前テレビで、グリズリーのネイチャーツアーの様子を見たことがあります。大自然の中で魚を捕る姿を、ありのまま間近で見学できるというものでした。それは、クマと人間との間で、ルールがしっかり守られているからこそできることです。ここ北海道でもそんなことができたらどんなに素敵だろうといつも思います。ここには、既に申し分のない舞台も素材も揃っているのですから、後は私たち次第です。
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