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キクイタダキ

 日本最小として知られるキクイタダキ(菊戴)という鳥がいます。黄色く美しい頭頂を菊の花になぞらえてこの名前がつけられたそうです。ここ北海道では山地の針葉樹に暮らしているそうですが、夏の間、かなりの頻度で山へ出かけていても、実はこれまで見たことがありませんでした。
 週末の寒波を先取りしたかのように、雪までは降らせずともとても冷え込んだ日の昼間、会社の玄関まで数歩という歩道の真ん中にうずくまっていたのがこの鳥でした。人が近づいても飛ぶ気配がなく、くちばしを開き、うぐいす色の小さな体をいっぱいに揺らしながらはぁはぁと息をしています。きっと建物のガラスに当たって脳震盪を起こしたのだろうと、野鳥に詳しい方に相談したところ、ダンボール箱の中で1時間ほど温めて様子をみてほしいとのこと。小鳥の扱いに慣れた社員とともに保護し、1時間ほどそっとしておくと、箱の中でも飛ぶ意欲を見せ始め、無事、元気に空へ戻っていきました。
 このキクイタダキ、驚いたことに人をほとんど恐れないようです。少し元気を取り戻してからも、人の手の上から逃げる素振りを見せず、愛くるしい目を向けては、あっという間に私たちの心をわしづかみにしていました。そして、彼女の中では、人間は逃げるべき相手としては記憶されていないようだと知り、驚いたと同時に複雑な気持ちにもなりました。おそらく、キクイタダキの生活圏は人間がほとんど影響しない場所にあり、人を恐れないというよりも、人を知らないのでしょう。人間を知らない鳥は逃げもしないのだという驚きの裏側には、私たちから逃げようとする鳥たちは、人間をよく知っているからだという事実も暗に示しているからです。でも、彼らの逃げるという行動が、遺伝子に組み込まれたものではないのだとしたら、私たちの行動次第によっては、身近な鳥たちとであっても、もう少し距離を縮めることは可能なのかもしれません。小さな命と間近で目が合った瞬間に、心がじんわりと温かくなる感じが、忘れられません。

2017年11月20日

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