命の始まり
車道から100メートル、いえ200メートルは離れていようかという白い原野の真ん中で、ひとつの命の終わりがありました。
おそらくエゾシカでしょう。もう既にほとんどの肉はそぎ落とされていましたが、きれいに残った肋骨と頭骨がそう教えてくれました。
辺りには無数の足跡がありました。遠くから何頭も集まってきた様子も分かります。きっとキタキツネのものでしょう。そして、カラスが2羽、まだついばんでいるのが見えます。直前に見た、頭上を悠々と旋回していたオオワシも、もしかしたらここで腹を満たした1羽だったのかもしれません。
残された足跡を見て、どれだけ多くの命が、厳しい冬を越すための力を分け与えられたのかを思いました。北の生き物たちの多くは、1年でもっとも過酷な時期に、次の命を宿します。生まれてきた子どもたちは、餌の豊富な暖かい季節に、初めての冬を越せるだけの成長を遂げ、かつ体力もつけなければなりません。気温が上がり始める早春の出産に備え、多くの母は、新しい命を宿しながら、長く厳しい寒さを乗り切らなければならないのです。彼女たちにとって、この1頭の命がどれほど貴重なものだったかは、想像に難くありません。
森の中では、いつもどこかで起きている景色なのでしょう。でも、それが私たちの目に触れることはほとんどありません。同じ場所で同じことがあったとしても、夏であったならば、足跡が残されることもなく、骨もあっという間に大地に還っていってしまい、気付くこともできなかったかもしれません。今が冬であったことが、命の終わりと始まりのつながりを、より鮮明に浮き立たせていたように思います。
2018年01月22日
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