春の始まり
啓蟄を過ぎたと思ったら、そのとおり、ふわりふわりと羽虫が飛び始めました。鳥たちのさえずりも、日に日に力強くなっている気がします。でも、皆が等しく春の訪れを感じられる訳ではないのかもしれないと、思い知る場面がありました。
すっかり観光地と化してしまったブルーリバーや青い池は、シーズンオフのこの時期は日本人の方が珍しいくらいです。中国語や韓国語がにぎやかに飛び交う中、橋の上から淡い水色の川を眺めていたところ、一頭のエゾシカがいるのに気付きました。大きな石の上にはこんもりと雪が積もっていましたが、その石と雪の隙間を熱心に鼻先で突いているようです。肉眼ではいったい何をしているのか判別がつきませんでしたが、望遠レンズで確認すると、細い枝の先を雪の中から掘り起こし、しつこいほど懸命に食べていました。
その動きは、何か重いものがのしかかっているかのように鈍いものでした。あんなに細い木で空腹が満たされるとは到底思えませんが、それでも頼らなければならないほど、今は食べ物を確保するのが難しい時期なのでしょうか。その後、そのシカは、定まらぬ視線を谷の両岸の間で泳がせながら、重い足取りのまま川の中を去っていきました。
木々が新しいやわらかい芽を吹き始めるまでには、あとひと月はかかるでしょうか。ここまで、既に長い冬を耐えた彼らにとって、春の始まりは気が遠くなるほど長いものかもしれません。
2018年03月12日
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