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春の音

 一見すると、初冬の森と早春の森は景色が似ています。林の下の雪もほとんど無くなりましたが、常緑のつる植物とフッキソウがわずかに見えるばかりで、風が吹き込めば身震いをしてしまうほど、寒さも残っています。芽吹く前の木々は、一本一本の枝先までくっきりと空に浮かび上がらせ、太陽が傾けば、どこからともなく漂ってくるもの悲しさが一層際立ちます。そんな時刻に散歩に出てしまったことを、少しだけ後悔しつつも、人影のない静かな空気を楽しんでいると、「タタタタタッ」とアカゲラのドラミングの音が響きました。餌を探すときの打音とは明らかに違うリズムです。立ち枯れた木を叩いているようですが、そうとは思えないほど、縄張りを主張するその音はずっと力強く、遠くまで響きます。
 ドラミングの音が届き始めると、しみじみと春だな〜、と思います。そう、きっと写真では表せない音の世界に、春の気配は溢れているのです。だから、この時期になるとそわそわと外に出たくなるのかもしれません。雪解け水の雫の音にムクドリの話し声、寒さは冬とそう変わらなくても、音は、私たちの心を軽やかに暖かな季節へと導いてくれます。

2018年04月09日

カテゴリ
今週のヒューエンス
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