待ちぼうけ
春、渡り鳥たちが群れをなしてその日の寝ぐらへと飛んでいった場所で、この秋も彼らに会えるかと期待して出かけてみました。午後4時前、まだ西日が眩しい頃に到着しました。彼らの移動は日没直後からだろうと考えていましたので、遠くの東大雪の山々を眺めながら、しばしうとうと。でも、彼らの声を聞き逃さないように、車の窓は開けておきます。日高山脈の上には雲がかかり、太陽の姿が隠れてしまったので、東の空に地球影が映し出されたのを見て日没を確認します。
そろそろかなと、車から降りて、遠くから聞こえてくるはずの鳴き声に耳を澄まします。でも、聞こえてくるのは車の走行音ばかりで、鳥たちの姿は一向に見当たりません。ススキの穂を切絵のように浮かび上がらせていた茜色の空も、じわりじわりと夜の群青色に押し出されていきました。
結局、暗くなるまで待っても、一群にも会えずじまいでした。もう南へと旅立ってしまった後だったのでしょうか。もしかしたら、春と秋とでは餌場や寝ぐらが違うのでしょうか。そもそも、ルートはいつも決まっているものではないのかもしれません。そう考えると、春に大群に会えたのは、とても幸運だったのかもしれないと思えてきました。
では、この日は運がなかったのか。そうとも言い切れません。きっと、期待したとおり渡り鳥たちがやってきていたら、シャッターを押すことばかりに夢中になり、あっという間に夜になってしまっていたでしょう。でも、実際には、静かで穏やかな晩秋をまどろみ、耳を澄まし、色が変わっていく空を眺めるという時間をもらいました。あわただしい日常の中では、やりたいことをとにかく詰め込んでしまいがちですから、この待ちぼうけの時間は貴重だったのです。もちろん、白鳥やマガンの群れは見たかったけれど、こんな日があってもいい、そう思えるほど、ゆったりと流れる十勝の空はきれいでした。
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