光と影
先日、何とはなくかけたラジオで、旭川市出身の作家三浦綾子さんが、代表作である「氷点」について語ったインタビュー音源が紹介されていました。学生時代に読んで、衝撃を受けた作品のひとつだったことを思い出しながら聞いていると、ストーリ構成は一晩でほぼ完成したことや、小説としては初めての作品だったこと、相談した夫から「祈ってから書くんだよ」と言われたことなどのエピソードに、驚きの連続でした。そして、解説者の「この作品は北海道だからこそ、書けた作品なのではないか」との言葉に、妙に納得しました。もちろん、三浦綾子さんご自身のバックグラウンドも大きく影響しているのは間違いありませんが、あらゆるものを凍らせてしまう寒さによって、様々な人間の心理が浮かび上がってくるというのは、何か分かる気がしたのです。
夜明けの時、最も寒さの厳しい時間です。立ち昇る霧の中から、黒々とした木のシルエットが浮かんできました。霧は静かにひたひたとその濃さを変えながら、木を浮かび上がらせたり、沈ませたりを繰り返します。太陽が力を増すと、燃えるような黄金色に染められた霧自身に、木々の影が映し出されるようになります。斜めに差し込む光の筋は言葉を失うほど美しい光景でありながら、はかなくとらえどころのない影は、何かこの世のものではないように見えることがあります。そして、太陽が昇りきってしまうと、それまでの時間がおとぎ話だったかのように、見慣れた青空と林の景色へと戻ってしまうのです。
極寒の地で繰り返される光と影の移ろいは、時に人間の心を表しているかのようにも見えます。長くこの地に暮らしてきた今ならば、きっと学生の頃とは違った印象を受けるのでしょう。また改めて作品に触れてみたいと思いました。
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