散り際
遠くの山々は、雲の中から姿を現すたびに白く染まるのが常となり、麓の町にも冷たい空気を吹き降ろすようになりました。カラマツに縁取られた畑たちが、丘を越え、街を越え、やがて深い裾野へとのみ込まれていくのが見渡せました。
黄金色がつくり出す景色の奥行きは、初夏に緑が織り成すものとも、冬に銀世界が浮かび上がらせるものとも、少し違っています。より遠くまで、大地を明るく照らしてくれているようです。身震いしてしまうほど冷えた空気を肌に感じつつ、ほっくりと炊き上がったカボチャの温かさを連想させる景色を眺めているという、不思議なギャップもまた、この季節ならではかもしれません。
風がカラマツの葉を散らすと、秋が最後の幕を下ろします。線香花火が最後の一瞬、パッと火花を明るく散らして消えるように、この黄金色の寿命もまた一瞬です。次に訪れる季節を知っているからでしょうか、線香花火とも、桜とも、また違う切なさがあります。
2019年11月05日
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